人間は臓器の工場か?

本当は「もし二・二六事件の青年将校がルトワックの「クーデター入門」を読んだら」の続きを書くべき・・・とわかっているのだが、読み始めてしまった本が面白かったので、鉄と情熱は熱いうちにということで、今読んでる本について。

この「生命に部分はない」、訳者である福岡伸一の講談社現代新書の2部作「生物と無生物のあいだ」「世界は分けてもわからない」の元ネタらしい。もともと単行本だったのを、新書化して無事3部作になった。前書2冊は共に(ちゃんと続けて)読んだ記憶は確かにあるのだが、肝心の中身を覚えていない。ので、そのうち読み返そうと思う。

まぁ、とにかくこちらの本、考える部分が多くて本当に面白い。私の悪い癖で、読んでいる途中なのだが、こういうのは勢いだから、このまま進めます。

さて、内容は行き過ぎた臓器移植ビジネスや遺伝子操作、人工授精についての批判なのだが、読み進めていくうちに、自己評価では結構進歩的なつもりだった自分の倫理観が、この件に関しては、そこそこ保守的であることがよーくわかった。例えば、移植のための死の定義の拡大について

脳の「高次機能」や「人格」を失ったものを含めて死の定義を拡張することの主たる理由は、ここでもまた、全脳死の場合と同じように、より多くの臓器が必要だからということなのである。(P91)

・・・ウエェ!もちろん、腎臓など提供者が生きたまま取り出せるものは、発展途上国ではとっくの昔にビジネスになってしまっているし、提供者が死なないと取り出せない心臓なども違法に流通している。よくまぁ、そういうビジネスが出来るものだと心の底から嫌悪する。自分の臓器を売る方は貧しさあまりかもしれないが、ビジネスを展開するほうは、貧しさあまって・・・ではないですからね。ふつう。

次に、その未熟さ故に拒絶反応が少ないと言われる胎児(中絶胎児)の利用!(利用!だって!!)について

たとえば、老化が目立つ年齢を迎えた人びとの身体機能改善のために、胎児が臓器や組織の供給源として大規模に使用されるという未来図を生物工学の研究者たちは描いている。(P105)

必要な組織を得るため何度でも妊娠することは全く問題はない、と考える医者や倫理家もいる。(P107)

胎児を販売することで、女性は人間部品産業における新商品の製造者と位置づけられ、医院や病院は製品の販売者または使用者ということになる。(P114)

・・・ウエェェェェ!!

個人的に、「子どもを作る」とは絶対言いたくないと思っていて、何故ならば、子ども=生命を作ることができるのは、人を超越した何かであって、人間の私ではないからである。子どもの体の素を提供することは出来よう。しかし、その体と不可分に結び付く意識、またの名、魂を作り出すのは私では断じてない。胎児を売りものとして敢えて妊娠するのは人の領分を完全に超えている。

また、臓器移植についても然り。何度か引用した記憶があるが、改めて池田晶子の言い分を明記しておく。

しかし、どう言われようと、自分が生きるために人が死ぬのを待つような、そのような心性をいやらしい、と感じる自分の直感を、私は信じている。(中略)

生存していることそれ自体でよいことである、という、人類始まって以来の、大錯覚がここにある。しかし、生存していることそれ自体は、生まれ落ちた限りサルにでもできることで、いかなる価値も、そこにはない。それが価値になることができるのは、人がそれを「善く」生きようと努める、そこにしかあり得ないのだ。(「考える日々 全編」P106−7)

とりあえず、本を読みながら考えたことは、

  • 人は人の領分を越えようとしている。それは、「生命製造」についてもだが、「死」を曖昧にしていく点にもある。死は、生きている限り経験出来ないものなので、明確に定義出来ないにも関わらず、人は自分たちの都合でより多くの臓器を利用するために、あえて死の定義を曖昧にしている。
  • すくなくとも私は、人の死を間接的に願うことはしないで、この肉体の最後を迎えたい。人の領分を超えた技術で生き延びるのではなく、いまの身体をできる範囲で慈しみ、老化を味わって生きたい。

でした。

 

4 Comments

  1. izt より:

    池田晶子さんおもしろいですよね。本を読んでると善い人になりたくなってきて、自分が助かったから他人を助けたりするようになりました。

  2. YUKIWO より:

    コメントありがとうございます!
    池田晶子さんの本は、自分の薄々感じていたことをドンピシャで言葉にしてくれている!と一気に読みました。でも善い人になるのはなかなか難しい・・・日々精進ですね。

  3. izt より:

    お返事ありがとうございます。
    生命操作やクローンは知るほど世の中狂ってるなぁと感じますね。世の中そうでも「自分だけでも善く」ありたいですね。いや災害ボランティアとか行きますと、善い人いっぱいいました。(変な人もいました)日々精進ですね。

  4. YUKIWO より:

    災害ボランティアなど、実行できていることがご立派だと思います。私はまだまだ…

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