Archive for the ‘本について’ Category.

藤原行成と関寺の牛

藤原行成が好きなので、関寺の牛を見にいって「いない」というのが、なんともよろしいと思っているのです。で、この件について詳細が書かれていたのは、吉川弘文館の伝記だったはずと購入したら、それではなく、別の本だったのでメモ。(自分のTwitterから読書時期を確認→ブログの読んだ本リストから該当の本の目星をつける→図書館で再貸し出ししました。)

・万寿二年六月四日条

或る者が云うには、「関寺の牛は、すぐに埋葬した。また、その像を画いて堂中に懸けた。

その牛を見なかった公卿は、大納言行成、参議広業<病後の灸治。>・朝任<妻の産穢。>である」ということだ。

P208「平安貴族の夢分析」倉本一宏

この文章自体は「小右記」から。逢坂の関のそばにあった関寺が地震で倒壊後、復興工事に使役されている牛が迦葉仏の仮現という夢告があったと。そして、その牛は再建工事完了とともに入滅した…という話なのだけれども、末法思想の世にドンピシャな話だったらしく、道長はじめ多くの貴族が訪れたらしい。夢告自体、復興工事中の話題作り(かつ資金集め)だったのだろうと言われているけれど、見にいった貴族ではなく、見にいっていない貴族が少数派として日記でリストアップされるほどブームだったのに、行っていない行成。そして3人の中で唯一理由が書かれていない行成。1000年以上前の人ですし、知り合いでもなんでもないですが、らしいなぁ!とさらに好きになったエピソードでした。

 

なお、伝記の方は以下の通り、大変簡潔な説明でした。

五月十六日、有名な近江国関寺の霊牛(迦葉仏の化身という)を見に道長・頼通等が赴いた。庶民に至るまで多くの人がこの牛と結縁のために集ったという(『左経記』)。関寺はのちの世喜寺といい、額を行成が書いたと伝えている(『世喜寺中興縁起』)。

P251-252 「藤原行成」黒板伸夫

戦争不条理小説勝手にランキング

私の中で「第二次世界大戦モノ不条理小説」の読書が一区切りついたので、意味不明度をランキングしてみる。私が意味わからん…ってなった順であり、文学的その他諸々の観点から評価したものではないです。完全に私の個人的見解です。

意味不明度1位 ジョーゼフ・ヘラー「キャッチ=22」

 

不条理を超えて、意味不明。意味不明すぎて、ほんとに意味不明。読了直後に「日本語訳だからわからんのか?英語で読んだ方がわかるのか?」と頭に浮かんだものの、「いや、英語がどんな感じなのかは見てみたいけれど、これをまた通しで英語で読むのは無理。やめておこう」と速攻考え直した。最近ヨーロッパ戦線の爆撃機についての本「ワイルド・ブルー」を読んで、ちょっとだけ「キャッチ=22」への解像度が上がった気がして、(日本語で)読み直そうかなと考えたが、やっぱり思いとどまった。上下巻あって長いし。10年くらいしたら全て忘れて、なんとなく読み直しそうだけど、すぐに思い出して後悔しそう。そんな一冊。

 

意味不明度2位 カート・ヴォネガット・ジュニア「スローターハウス5」

 

時間旅行の部分が不条理よりの意味不明。ちょっと前に読んだため(そしてその後「キャッチ=22」というキョーレツなのを読んだため)、いまいち覚えていないのだが、ドレスデン空襲のシーンより、木靴のシーンの方が印象に残っている。そういうものだ。

 

意味不明度3位 ノーマン・メイラー「裸者と死者」

 

意味不明ではなく、単に不条理。日本語では手に入りにくいため、英語で読んだ本。国際関係ならいざ知らず、軍隊単語は詳しく無いので「noncom」について、愚かにもnon combatと認識しちゃって、「え、戦地でどう考えても兵隊なのになんで?」ってずっと頭を捻ってた。ちなみに正しくはnon commissioned officer、下士官のことです。半分くらい読んだところで「いくらなんでも、おかしいわ」って気がついて手元の辞書で調べて理解できた。それはともかく、話の筋は1位2位ほど意味不明では無いのだが、死んだり、山に登ったり、気がついたら勝ってたり、割と不条理。noncomのこともあり、英語で読んで正しく理解できていたのか不安だったため、図書館で全集に収められているのを改めて読んだけれども、(確か)60年前の翻訳で、日本語が少々古かった。その上、hornetがスズメバチではなく、熊蜂と訳されていたので、誰か新訳出せばいいのに、と思ってます。出勤途中の山手線で読んでたら、乗り合わせた観光客と思わしき外国人にすごくびっくりされて、二度見されたのも思い出。某軍曹がなんでか、銀英伝のオーベルシュタインで再生されておりました。

 

意味不明度4位 イーヴリン・ウォー「誉れの剣」シリーズ

 

こうやって並べると、あれ、普通の小説じゃん、と思ってしまう。でも、やっぱり個々のエピソードは不条理で滑稽なのだよな。最後びっくりするほど綺麗に片付けちゃったし。最初方のおまるの話もね、なかなか意味不明ではある。とはいえ、他の3冊に比べると「イギリス軍だし、実際そういうのもあるのかしら」と英軍に対する知識不足故か、なんだか納得してしまう。こんな雑な理解をされちゃ、イギリス軍もたまったもんじゃないだろう。(少なくとも「キャッチ=22」に書かれているアメリカ軍と、横並びで比べて欲しくは無いだろう。)割と厚めな3分冊なので怯みそうだが、スラリと読める。が、重厚とも言い難いし、嫌いじゃ無いけど、人には勧めにくい一冊になってしまう。「キャッチ=22」くらい突き抜けてると、かえって「意味わからんから、読んでみるといいよ。ホント、意味わからんから」っておすすめできるのだが…

 

他にもグロースマンの「人生と運命」も読んだことがあるけれども、これは戦争そのものの不条理でめいいっぱい覆われていて、なんというか上にあげた本にあるような、ブッ飛んでる感じではないな。イタリア小説の「雪の中の軍曹」も同じ。真面目に戦争の不条理を小説で読みたい方におすすめです。

本の装丁は大事という話

「本の虫の本」を読んでいて、本の装丁について書かれていたので思わず。

私は装丁について、そこまで気にならないタイプだと自分で勝手に思い込んで読書生活30年以上過ごしてきたし、実際「中身は気になるが装丁が嫌い」という理由で本を買わなかった記憶もない。そもそも装丁が気に入らないから買わない本は、中身に対してもそんなに食指が動かないのだ。2014年にも下記の通り、白人の子どもが表紙のビジネス書が気に食わなくて突っ込んでいたけれども、最近この手の装丁はめっぽう減っている気がする。さてはあんまり売れなかったのかな…(ニヤリ)

そして、数年前Twitterで見かけて「なるほどなぁ」と思ったのが、「筆者の顔写真がドーンと帯になってる新書は読みたくない」という意見。個人的には佐藤優の本をちょっと前までよく読んでいたし [1]最近はあまり読んでないですね。飽きたのと、ウクライナ戦争に絡んでちょっと気持ちが冷めたのと。、後はルトワックも帯にドドンと顔が出ていた気がするし、完全に避けてはいないのだけれども、ふーん、まぁ目安にしましょうか、くらいのノリで私の心に残っている。

そんな私が全力で許せないと思っているのが、今売っている横溝正史の「悪魔の手毬唄」の装丁。角川文庫の金田一シリーズは大学生の頃、つまり20年くらい前に、一通り集めてその後留学に伴い一度売って、また去年一気に集め直したのだが、なぜかこの「悪魔の手毬唄」だけが、その間に表紙が変わってしまってたんである。 [2]八つ墓村も変わって、金田一耕助の顔イラストになっているようだが、八つ墓村は数年前に買い直していたのでセーフだった。なんでか理由は知らないけれども、私は2019年のジャニーズ主演のテレビドラマを機に、若い層を取り込もうと可愛らしい感じにしたんでは?と勝手に疑っている。ただし、同じく最近ドラマ化している犬神家のデザインは変わってないので、違う理由かもしれない。とにかくこの一冊だけが、そこらへんで1200円くらいで売ってる手拭いみたいな柄になっちゃってて、私は悲しい…あの一文字だけどーんとデザインされた不吉な表紙が好きだったのに。確か、「悪魔の手毬唄」では「鞠」という字だったはず…見てくださいよ、このノホホンとした手拭い柄のデザインをっ!!!!横溝正史で並べたら、この本だけ仲間はずれで虐められますよ。それくらい場違いです。

ただ、最近横溝正史生誕120年記念復刊とのことで、一文字どーん表紙より更に横溝正史っぽい表紙で色々な話が続々と復刊しているので、私は嬉しい。横溝正史と江戸川乱歩にはポップとか手拭い柄は似合わないんですよ…昭和のお化け屋敷の看板みたいなテイストは失ってはいけないのです。大体、昭和が舞台なんだしさ。ドロドロしてなくっちゃ。エログロこそが真髄じゃないの、手拭い柄じゃ健康的すぎますって、ねぇ?

References

References
1 最近はあまり読んでないですね。飽きたのと、ウクライナ戦争に絡んでちょっと気持ちが冷めたのと。
2 八つ墓村も変わって、金田一耕助の顔イラストになっているようだが、八つ墓村は数年前に買い直していたのでセーフだった。

遡る系歴史本

「遡る系歴史本」といっても歴史本は基本遡る系なので、妙なタイトルだけれども、ここ数年「何かをキーにして何にもわからないところから、あっちこっち出向いて調査していく」系のナチ絡みの本をよく読んだ気がするのでまとめておく。「何かをキーにして何にもわからないところから調査していく系」って、それも歴史本の宿命では…とも思うが、要は私の中で「これらはひとまとまり!」って本です。因みに人に勧めるとしたら一番上と一番下の本かな。間の2冊は被害者側、加害者側、それぞれ重く受け止めるべきことではあるが、少々(それぞれ違う理由で)読みにくかった。


この本はそこまであちこち歩いていなかったかもしれない。また、他の3冊は遡るきっかけというか、調査の対象というか、本の主題が自分の家族や特定人物であるのに対して、この本は本全般についてなので、ちょっと毛色が違うかも。でも本をキーにして遡っていくナチ絡みの本なので、リストに入れておく。読書当時の感想はこちら

きっかけ(つまり出だしの部分)がどうしても思い出せないのだが、こちらはナチに殺されたユダヤ人の家族による過去遡り系。この本を手に取ったのはその前に読んだ、東大だったかの歴史学の先生が集まって歴史の学び方をまとめた本で紹介されていたからだった。今回リストアップしている本の中では一番難しく感じたのは、語り口故だろうか。

こちらは加害者側の視点での遡り系。ただ肝心の謎部分が解かれないままに終わった記憶。筆者と精神分析医との会話など示唆は多いんだろうけど、どうも話があっちこっちに飛んでしまって、スッキリしない印象。Amazonのレビューみて思い出した。そうだ、ソ連の捕虜になったおじいさんの話にもページが結構割かれていた!このズバリと家族による犯罪の可能性に切り込んでいかない姿勢は、加害者側だからなのかもしれない。どうしても「自分達一族もある意味被害者だった」というストーリーを入れずにはいられない…という、心理?流石に深読みしすぎかな。

実はまだ読んでいる最中。今ちょうど半分くらいだが、調査のきっかけとしては一番偶然なのかもしれない。語り口も読みやすい。基本はアームチェアの中から発見されたSS将校のドイツ人の歴史を紐解いていくストーリーなのだが、戦後ドイツにおける歴史との向き合い方についても言及されていて、その部分が個人的には新鮮だった。筆者はイギリス系ユダヤ人ということで、歴史に思うことはあるが、アームチェアの持ち主とは個人的な因縁はない(はず)。なので、諸々のバランスがちょうど良く感じるのかも。(追記:読み進めていると、個人的因縁ありました。ヨーロッパ狭い。)

最近一気に買った本の進捗状況

4月に本代分の臨時収入があったので、一気に揃えた本のリストとその進捗状況を完全に自分向けメモとしてまとめてみた。★付きが読了、もしくは何かしら使っているもの。

この状況下ほとんどはe-hon経由で購入しているが、何冊か直接書店で(その臨時収入を充てて)購入しているものもある。その場合はこのリストに入ってないです。確かアガンベンの「私たちはどこにいるのか? 政治としてのエピデミック」とかウィンストン・ブラックの「中世ヨーロッパ ファクトとフィクション」、この辺。多分他にもちょこちょこと購入はしているはず。

因みに私なりに優先順位を定めて今回の購入本を選んでいて、まず金田一耕助シリーズはまるっと。その他は「本に書き込みをする可能性が高く、価格が高く、ここで買っておかないと入手困難になりそうで、図書館に置いていないもの」というルールで選んでいる。

個人的には思ってたよりは読んでたな、という印象。金田一シリーズはガシガシ読めるので、ガシガシ読もう。


  1. アリストテレス生物学の創造 上 
  2. アリストテレス生物学の創造 下 
  3. 資本主義問題 
  4. アメリカを作った思想 五〇〇年の歴史 
  5. 自然のしくみがわかる地理学入門 ★
  6. 甘さと権力 砂糖が語る近代史
  7. アメリカ様 ★
  8. 三つ首塔 ★
  9. 七つの仮面 ★
  10. 人面瘡 ★
  11. 迷路荘の惨劇 ★
  12. 首 ★
  13. 病院坂の首縊りの家 上
  14. 病院坂の首縊りの家 下
  15. 悪魔の寵児 ★
  16. 白と黒 ★
  17. 幽霊男 ★
  18. 英文解釈教室
  19. 新ラテン文法
  20. 教養の書 ★
  21. 書き取りシステム1800・1900
  22. カエルのバレエ入門 絵本 ★
  23. 悪魔の手毬唄 ★
  24. 仮面舞踏会 ★
  25. 悪霊島 下
  26. 悪霊島 上
  27. 本陣殺人事件 ★
  28. 悪魔の降誕祭 ★
  29. 犬神家の一族 ★
  30. 悪魔の百唇譜 ★
  31. 夜歩く ★
  32. 独検過去問題集〈5級・4級・3級〉 2020年版 ★
  33. 歴史が後ずさりするとき 熱い戦争とメディア ★
  34. 全体主義の起原 2
  35. 全体主義の起原 3
  36. かくれた次元
  37. 人種主義の歴史 新装版
  38. 新全体主義の思想史 コロンビア大学現代中国講義
  39. キャッチ=22 上 ★
  40. キャッチ=22 下 ★
  41. コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった ★
  42. 独検過去問題集5級4級3級2級準1級1級 2021年版 ★
  43. 善の研究
  44. 西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史 ★
  45. 神の仮面 西洋神話の構造 下
  46. 神の仮面 西洋神話の構造 上
  47. 〈弱者〉の帝国 ヨーロッパ拡大の実態と新世界秩序の創造 ★
  48. 戦争論 われわれの内にひそむ女神ベローナ 新装版
  49. 荒巻の新世界史の見取り図 大学受験世界史 下 ★
  50. 荒巻の新世界史の見取り図 大学受験世界史 上 ★
  51. 荒巻の新世界史の見取り図 大学受験世界史 中 ★
  52. 仏教の源流 ★
  53. WHAT IS LIFE? 生命とは何か ★
  54. 漢字の体系 ★
  55. 中世のなかに生まれた近世 ★
  56. 近代とホロコースト ★
  57. 独裁の政治思想
  58. ウンベルト・エーコの世界文明講義 ★
  59. 情報の歴史21 ★
  60. エセー 7
  61. エセー 4
  62. エセー 6
  63. エセー 5
  64. 東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊 新装復刊 ★
  65. 敗北者たち 第一次世界大戦はなぜ終わり損ねたのか1917-1923 ★

2021/10/17 読んだ本更新

2021/11/07 読んだ本、さらに更新

22/02/26 さらにさらに更新

昭和の新語

アメリカ様は、日本を未曾有の惨事へと導いた財閥を解体せしめ、悪法を廃止してくださった。いずれ財閥と同じく戦争への道を作った官僚もなんとかしてくださるだろう…という観点から、軽い文体で政府や出版人を揶揄しまくっているこの本で、一番面白かったのが「昭和時代に流行した新しい言葉」。明治大正時代にはなかったとのこと。意外な言葉が挙げられていたので、ここで書き出してみる。

この辺は納得感が強いもの。(納得感があるものは多いので全部じゃない。)

前線 共栄圏 統制経済 隣組 疎開 総動員方 玉砕 撃ちして止まん 防空服 闇市 進駐軍 外食券 千人針 

意外だと思ったもの。

産業戦士 交通整理 自爆 時差 横流し 栄養失調 協調 勤労奉仕

自爆は「使う機会は無かったかもだけど、言葉としてはありそうなのに」と思ったが、よくよく考えると、使う機会がない言葉は確かに存在しないのかもしれない。この辺深く考えていくと、唯名論、実在論の話になってしまうので、今日のところはパス。産業戦士や交通整理は、大正時代くらいならあってもおかしくなさそうだが、無かったんだなぁ。勤労奉仕とかは室町あたりからあってもおかしくない響きだが、それは「奉仕」部分であって「勤労」は確かに近代の概念なのかもしれない。栄養失調について、宮武外骨は別項を設けている。栄養不良という単語はあったらしいので、なぜ不良が失調になったのか、気になるところ。

一番びっくりしたのが「協調」。うーん、確かに言われてみると、なんとなく響きに昭和感はある。「協」は「共栄圏」「五族協和」の「キョウ」と聞こえ方が同じだし、「調」の方も栄養「不良」が栄養「失調」になったことを鑑みるに、昭和時代のお気に入りの漢字なのかもしれない。

こんなふうに、後から見ると「え、この言葉はこの時代に生まれたのか!」というのが、今の世でもそこそこあるんだろう。コロナ絡みだと「三密」とかは、100年後あたりには、今、我々が「疎開って昭和時代にできた言葉なんだ。まぁわかる」と言うのに似た扱いになっていそう。

ジジェクのパンデミック論

 

ジジェクの本には全く歯が立たず、修行気分でとりあえず読みきった過去があるので、戦々恐々しながら読み始めたのだが、一部「?」はあったもののなんとかいけた。薄かった上に、時事問題だったのが勝因?なのか…とはいえ、時事問題ゆえか、それとも私がやっぱりジジェクの主張を理解できていないのか、文章としてまとめることができないので箇条書きで気になった点を挙げておきます。

  • 中国政府は人民を信用せず、人民も政府を信用していない。他の国においてもソーシャルメディアによる陰謀論、フェイクニュースなどの影響で、国民が政府を信用していない。これでは感染は止められないだろう。
  • 新自由主義では個人の内に階級がある。つまり、自分で自分を搾取している状態。ただし、同時にパンデミック下においては「1)西側先進国での自己搾取の労働」「2)第三世界の疲弊させる労働(製造業など)」「3)介護職やウェイターなど人をケアする労働」の3つの労働があり、2、3は昔ながらの「階級」でもある。
  • ヨーロッパを襲う3つの嵐は「1)コロナウィルスによる身体的影響(感染、隔離、死など)」「2)コロナウィルス拡大による経済的影響」「3)シリアで起きている暴力の嵐」であり、ロシアとトルコは石油だけではなく、難民の流れもコントロールしてヨーロッパに外圧を加えられるだろう。
  • 今現在は難民はコロナウィルスと結びついて迫害を受けていないが、万が一それらが結びついたら「科学的医療的な理由」で難民排斥を正当化できてしまう。
  • コロナ後の通常はコロナ前の通常とは違うだろう。ハグや握手をする余裕があるのは自己隔離できる特権階級のみで、一般庶民は「仕事に戻り」、ウィルスと生きていくことになる。
  • 「個人の責任」を重視するあまり、経済や社会制度をどう変えるべきかを見えにくくするならば、それはイデオロギーとして機能している。
  • マスクや人工呼吸器、ワクチンなどの分配、隔離施設の確保、失業者への手当てなどは市場メカニズムから離れて行う必要がある。これがジジェクのいう「共産主義」の出番。

個人的に面白かったのが「新自由主義では自分の中で階層闘争はじまっちゃってる人もいる」という部分。言われてみれば確かにね、と思う。それから「難民とコロナが結びついたら〜」部分に関しては、当初のアジア人への暴力事件など考えると既に危ない兆候があるのかもしれない。まぁ、アジア人に対しては、「コロナをうつされるかもしれない恐怖」から「コロナを発生させたこと(結果自分たちの生活が変わってしまったこと)に対する苛立ち」に暴力の理由が移行しているかもしれないが。

何れにしても、コロナで人的交流は減っているし、その分フェイクニュースなどに晒されやすくなるし、経済的影響はデカイし、新しい生活習慣は馴染めないし…でダークサイドに落ちやすい状況ではあることは間違いないでしょう。そうならないために、なにかわかりやすい処方があればいいのだけど、そんなものはないのがまた辛いところですね。

歴史は縦横の視線で眺めないとね、と言う話+α(読書日記)

今回も簡潔に。

 

半藤一利の昭和史シリーズ完結篇!とのことで、読んでみた。実は「昭和史(戦前)」と「昭和史B面」は読んでいるのだが、「昭和史(戦後)」はまだ読んでいない。いつか読もう…というのは、さておき。当たり前といえば当たり前なのだが、意識しないと中々できないことに「歴史は横で眺めてみないとわからない」ということがある。日本国内に限っても、政治的な出来事と文化的な出来事、これは結構真面目に考えないと、頭の中で一つに融合しない。他国と自国の歴史も、出来事としてはそれぞれ把握できても、「どのようにそれがつながっているのか?」というのは、よっぽどメジャーなものでもない限り意識されないのではないか?(もしかして、ちゃんと意識できていないの私だけ?)そういう意味で、この本は「横の繋がり」を意識するにもってこい。ちょいちょい挟まれる現在(安倍政権)への言及も、縦の糸のなんというか、色合いのパターンを意識できる。

個人的にはドイツが対ソ戦略の一環で日本を取り込もうとする中で派遣されたヒトラー・ユーゲントが来日。元々年齢層も10代後半と高めでその分訓練も行き届いている彼らのおかげで、小国民は軍隊式で鍛えられることになり、散々迷惑した、という本音が面白かった。

 

母の本棚から拝借。より短く軽めである「江戸の備忘録」と続けて読んで面白かったのだが、「殿様の通信簿」のほうは読んでいて、違和感が残った。中身にではない。文体にである。どこかで読んだことのある、この癖のある文体。思いあたったのは

ー司馬遼太郎

であった。

この夏読んだベスト本!Educated By Tara Westover

 

夏休みの宿題として読み始めたのだが、これが面白いのなんの。なんでか未だ日本語訳が出ていないので、原著で読んだのだが、いつもの「よくわからん単語は飛ばし読み、何度も出てくるよくわからん単語は調べる」方式で、構文自体もそう難しくないし、比較的短時間で一気に読めた。まぁ、モルモン教に関するざっくりとした知識や、アメリカ西部、アイダホとかユタとかアリゾナの田舎の雰囲気がわかっていると、より理解しやすいかも?とは思う。私的に面白かったポイントを今回はまとめます。

まず、タラの家族の話。両親と上からトニー、ショーン、タイラー、ルーク、オードリー、リチャード、そしてタラの9人家族。両親の学歴について書いてあったか記憶がないけれども [1]後ほど述べる母親が対抗して自主出版する本の著者紹介によれば、母親の方はタラと同じ大学を出ている。、上の3人だけが生まれた時に出生証明書がきちんと出され、短いながらも学校に通ったことがある状態で、下の4人は父親が政府を信用しなくなってしまった後に生まれたため、証明書もなければ通学経験もなかった。この「上3人がちょっとでも学校に通った」っていう点が、地味にタラの人生に影響があったのだろうと思う。というのも3人のうちタイラーが勉強を続けて大学に進んだから。多分、彼が勉強することを楽しく感じ、続けたいと思わなければ、タラに大学に行くべきだと誘うこともなかったのだ。

では、父親はいつから「こんな」になったのか。2番目の子供であるショーンが生まれた時に、ハーバリストを助産婦として雇って家で産んだらしいが、その次のタイラーは病院で生まれている。4人目のルークからが徹底して反政府的になっているので、この本の最初に触れられていた1992年に一家が住んでいるのと同じアイダホ州で起きたRuby Ridge事件自体は父親がサバイバリストになった直接の原因ではなく、単に父親の思想を強化する材料になっただけなのだろう。(ちなみにタラ本人は1986年生まれ。)つまりこれといった特定の原因はなく、後年タラが推測するように双極性障害の影響や、自分を含めた家族が数々の怪我をハーブとオイル(エッセンシャルオイル)だけで文字通りサバイブしたのが、彼のサバイバリストとしての思想をどんどん強化していった。元々は自立的であった母親のハーブオイル精製などのビジネスも、有名になるにつれ父親が吸収していったし、最後には地域で有力な雇用主になっており、大学教育を受けなかった4人の子供も親に養われている状態。母親も含めて皆彼の影響下に入ってしまい、そこから出ようとしたものは徹底的に痛め付けられるし、心理的傷を残す…でも自分の思想は絶対的に正しいと信じて、1ミリも疑っていない。うーん、見事な毒親!

ちなみにグーグルマップでBuck’s Peak, Idahoで検索すると、彼女の生家がわかる。本の中でも「昔は5つのベッドルームしかなかったのに今は少なくとも40はありそう!」 [2]3LDKひろーい!の日本人に喧嘩売っているわけじゃないと思います。と言っていたほどの広さで、駐車場にとまっている車、アメリカンサイズだからそこそこ大きいはずだが、それと見比べると確かに相当大きな家だ…ちなみに、グーグルマップからは母親(父親)のやっているエッセンシャルオイルのウェブページも確認できる。見たところ、どうも「Educated」に反論?して「Educating」という自社出版本を出すらしい。売りは「ホームスクーリングで3人の子供を博士号取得まで育てた!」「コロナで学校に行けない時代に是非!」とのこと。ファンディングもしているが結果がちょっと寂しい感じである。

話を戻すと、親の思想の影響は大学に行っても続く。着る服や歯痛の治療、政府からの経済的援助を受ける受けないなど。周りの人が気をかけたことももちろんだが、タラは大学で習ったことをきっかけに世界を確実に広げていった。自分の父親が双極性障害ではないか?と気がつき、それによってより客観的に父親と家族を眺められるようになったのは心理学のクラスでだったし、「アイダホ州のRuby Ridge事件」という単語を同じ心理学のクラスで知り、それについて検索することで、父親から聞かされていたランディ・ウェーバーの話が事実とは全く違うもの、つまり「ホームスクール」が問題でウェーバー一家は射殺されたのではなかったことを知った。父親が言っていることは真実ではない、という知見を得たのだ。

初年度の西洋文明美術のクラスについてのエピソードがまた興味深い。そもそも、本来は1年生向けのクラスを取るべきだったが、このクラスは3年生向け。しかも初回の授業で「ホロコーストって何ですか?」って聞いてしまい、教室を氷点下状態にするわ、教科書の読み方を知らず、ただ絵を眺めていただけだったり、アメリカの大学で必ずお目にかかる「blue book(記述式用の10ページくらいのノート。本当に表紙は青い。というかあれは水色か?)」を試験で準備しなかったり、カラヴァッジョの綴りを間違えたり。ホロコーストを知らなかったり、教科書の読むべき場所がわからないというのは、流石にないと思うが、他は留学生あるあるである。となると、もう彼女は異邦人ではないか。ホロコーストを知っている分、留学生の方がまだ一般的なアメリカ人学生に近い。同じアメリカ、同じモルモン教徒でもこの分断である。言わんや…

その後のタラが学問を極めつつも、実家に戻ってしまい、そこで恐れ、傷つき、最終的に家族と決別するが、せめて母親にでも会いたいと思っても拒絶され…という部分もなかなか感動的というかハードムービングな話なのだが、どうもうまく言葉で言い表せないので、今回は割愛させてもらいます。

何れにしても教科書の読み方を知らない状態から奨学金をゲットできるまで成績を爆上げしているのは、本人の生まれ持った知性もあるだろうが、紛れもなくそれに加えて努力の結果である。この本を読んでいて、アメリカの大学に通いたくなってきてしまった。分断もあるし、争いも絶えない。しかし、(絶対ではないものの)努力が認められやすいのもアメリカという国だと私は思う。

 

■おまけ■

大体のストーリーは以下のページに纏まっているので、そちらをご確認ください。

 

こちらも↓

「毒親」から離れた彼女には「教育」という光があった(山崎繭加)

 

References

References
1 後ほど述べる母親が対抗して自主出版する本の著者紹介によれば、母親の方はタラと同じ大学を出ている。
2 3LDKひろーい!の日本人に喧嘩売っているわけじゃないと思います。

最近の読書

あまりに放置しすぎてすみません。家にこもって仕事をしていると、どうも人としての間口が狭くなるような気がしなくもない。やはり人間刺激が必要なのかも。…と言うことで、長文を書くネタも気力もないので、最近読んだ本についてパパッと数行でまとめたいと思います。思うに、1冊読むたびに手帳に3行感想文を書くルールにしていたころ読んだ本の方が、記憶の残り方が多少マシだったのではないか?なので、やっぱり読んだ本については短くてもいいから何か書こうと思います。書かない本(小説とか)もあるけどね。

 

収録されている「藤原行成をめぐって」というエッセーを読みたいがために、ついでに残り全部も読んだ。清少納言と行成のペアだからこそ輝いてた、ってのは全面同意です。自伝は以前に読んだことがあるような…「両性具有の美」に関しては「男の世界に憧れる女」という雰囲気がどうも苦手に感じた。

 

勢いやよし。大化改新がどういう成り行きだったかを覚えていないとだいぶ辛い。書名になっている話以外は奈良の地理感がないと、ちと辛い。生駒山はもっと下の方にあると思ったら全然違ったし…奈良は小学生の頃の修学旅行と家族旅行(というより家族で行った修学旅行)でしか行ったことがない。奈良ホテルそばの串カツ屋でお腹が破裂するほど食べたっけ…改めて行きたい。

 

新冊の方を読みたくて、ついでに前作も読んでみた。感想は「どうも頭に入ってこない…」に尽きる。Amazonの感想を見る限り、どちらの本についても訳に文句を言ってる人がいるので、理解がいまいちなのは訳文の問題なのだろうか。一言でまとめるならば、それぞれ「元々人間の脳は読書をするようにはできておらず、成長する過程で読書の仕方を学び、読書脳を構築している」「デジタルだけで読むのは識字能力への影響が懸念されるので、紙の読書をベースにデジタルの読書にも慣れるべし」ということかしら。とりあえず、2冊連続で読むと「子供の頃に大人に読み聞かせしてもらった時間が結構大事」ってことだけはよくわかった。甥っ子姪っ子にも沢山読んであげようと思う。後、最初の方の本を読む限り、英語って結構難しい言語なんだな、と。イレギュラーが多すぎるんですよ…

 

最初風呂の中で読んでいたのだが、半分くらいで文体にギブアップしてしまった。語尾に「〜なんだ」「〜やね」というのがちょいちょい出てくるのがどうも許せなかった。お風呂の中だと静かに本だけに向き合って読むことになるので、音楽聴きながら読む通勤本に変更して、昨日一気に残りを読み切りました。ネットだと気にならないのに、紙になっていると文体が気になるのは、これ、もしかして「紙の読書」と「ネットの読書」の違いなのかしら?あと、本の構成も結構謎。第3章から「む、期待とちょっと違った」と思う人が多いのではないかと思う。