中国脅威論

まず、英語版の卒論、一旦撤回します。別に問題があった訳ではなく、ただ単にやはり日本語訳に直してからアップするのが基本かな?と思い直したので。しかも、来学期入ったら卒論を書き直す予定です。平間洋一先生からアドバイス頂いた部分も直したいし、個人的にあんまりにも未完具合に泣きそう。取り扱い範囲が広いからなぁ。海軍の話なのに、あんまり潜水艦とか領海問題とか触れていませんしね。勿論、高々25〜50枚の卒論な訳ですから、本の情報量を目指してもしょうがないんですけど、何だか悔しいのです。まぁ、本は未来に取っておきますが。

さて、私の卒論は海軍について語っている訳ですが、結論一歩手前では国際関係そのものについて書いているので、結構「中国は脅威か否か」について考える事が出来ました。以下、「脅威論」と「非脅威論」に分けて、それぞれのポイントについて考えてみました。というか、「非脅威論」に対しては反論を展開しています。

一応予備知識として:私自身はリアリストです。リアリストとは、そのままですが国際関係論でいう現実主義者。かのミアシャイマー教授によると

1)世界政治では国家が中心
NGOとか国連とか基本無視。勿論無視しないリアリストもいる・・・はず。ネオリアリストとか色んな派閥に分かれますが、ここでは大まかにミアシャイマー教授の定義に従います。

2)国内情勢は関係なく、国際関係の環境が国の行動に影響を与える
つまり、誰が指導者だろうと、どんな政治形態(独裁とか共産国家とか)でも関係ないってことですね。個人的には、国内情勢(と国民性)を考慮すべき事柄も多いと考えていますが。今回の中国のケースも国民性を考慮しています。

3)国家は生き残る為に互いに競争する
他国の為に譲歩したりはしない、らしい。

という3点が現実主義者の世界の見方らしい。全てちょっとずつですが私の見方とはズレています。上でも書きましたが、私は国民性も考慮すべきだと考えていますし、3番目なんてこう、苦笑いしたくなる感じ。ただし、リアリストかリベラリスト(自由主義者)かといえば、確実にリアリストである、ということです。因みにリベラリストとは、これまたミアシャイマー教授の定義によると

1)国際政治の政治の主役は国家
といってもNGOやグローバリゼーション、国連を考慮に入れる学者もいますし、やっぱり派閥次第ではあります。

2)国内政治の状況はその国の外交政策に影響を与える

3)ある国の政治体制の方が本質的に他の政治体制よりも好ましい
これが民主国家同士では戦争をしないというデモクラティック・ピース理論の元になっています。そして民主主義を広げようとする政策もここから出ている訳ですな。

4)パワーよりも経済とかの方が大事
経済依存が進めば、戦争をするデメリット(経済的打撃)がメリットを越えるって考え方もここから。

という事になりまして、まぁ、基本的にリアリストは悲観的でリベラリストは楽観的と言ってもいいでしょうか。じゃ、実際にアメリカの政治はどうだ?ネオコンはどっちだ?とか言い始めると話が元に戻らないので、基本の概念はこの辺で。

本題。では具体的に中国が脅威であるとされる理由は
1)中華思想
2)中国国内での愛国心の高まり
3)経済
4)軍増強
5)現実
6)地政学的観点
の6つ。(←私が思いつく限り。)

1)中華思想
中国の歴史を学んだ人間ならば常識でしょうが、中国の中華思想は2000年以上もかけて染み付いた国民性です。簡単に言うと「自分が一番だもんね」という感じなんですが、「一度でも中国の文化を受け入れたら、中華帝国の一員」→「中国が支配してもいい土地」→「中国の領土」と理論が発展しちゃっているのが近隣諸国として問題な所。日本本土は一応大丈夫でしょうが、沖縄辺りは既にグレーゾーンと化しているようです。そしてこれが台湾問題のミソでもあります。「台湾は同じ漢民族が移り住んだじゃん(内戦後)。同じ文化じゃん!」→「同じ文化なのに違う国ってあり得ない!」という意識があるんでしょうね。

2)愛国心の高まり
で、この中華帝国が約100年にわたって屈辱を受けた時代があります。それがイギリスのアヘン戦争から日本の侵略〜終戦まで。次の項でも書きますが、経済成長によって豊かになった中国は大国としての自覚を取り戻してきたんですね。そうなると、許せないのが屈辱的な歴史の原因となった日本(とイギリス)。その頃(1970〜80)日本自体も経済的大国になっていましたし、近場だし、許せん!しかも、また侵略してくるかも知れない!と日本を仮想敵国とすることで、国民の愛国心&反日を高め、それを政府支持へと持っていきたいのが共産党の狙い。

3)経済
んで、経済発展というのは中国を豊かにはしたのですが、同時に共産党にとって「共産主義経済の失敗」という大問題を提示している訳です。「みんな平等だよ」がモットーだったのに格差は開くばかりじゃ、共産党を支持する理由も無い。そこで、政府が編み出したのが愛国心を盛り上げ、経済を発展させ、イデオロギーには目がいかないように国民を満足させるという方法です。

4)軍増強
という訳で、手っ取り早く愛国心を盛り上げるために「失われた領土」を取り戻せ!という方針を政府は打ち出すんですね。南シナ海の島とかいい例です。しかも、意外と天然資源が豊富な東&南シナ海、押さえておいて経済的に損はありません。しかも、石油などのエネルギーが地元で取れるという事は、アメリカ海軍やインド海軍、挙げ句にイラク戦争以降は日本の海自まで出しゃばっている始末ですから、そんなヘンチクリンなやつらがウヨウヨいるアラビア海やインド洋、そして最も海上テロの危険が大きいマラッカ海峡を通っているシーレーン(海上交易ルート)にあんまり頼らなくていいという事です。

具体的にどうするかと言えば調査とか一応やった後に、実効支配です。中国は一応、海上の国境に関する国際法を批准しているくせに、国際社会の場で国境を決めるのは嫌らしく、大抵2国間での会談によって決着をつけようとしています。軍事力経済力を盾にしている訳ですね。(因みに同じテを某国が某島に対してもやっていますが、これは先生を見習ったという事でしょうか?あんまり真似していると、同一文化の領土だと勘違いされるかもよ?)そして、軍事力アップはシーレーンそのものの防衛にも有効です。ま、こりゃそのままですね。

5)現実
これは単純。実際問題、日本の領海を侵犯してみたり、日本が「資源調査をしようかな」といえば「軍艦出すぞ」と脅してみたり、あれもこれもみんな中国脅威論のいい例です。

6)地政学的観点
中国は元々ランドパワーと呼ばれる「陸軍が強い国」なんですね。これは領土の広さをみても歴史をみてもほぼ自明と言っていいと思います。が、最近は「シーパワーにもなります」と宣言しておりまして、まずは沖縄〜台湾〜フィリピン、次に日本〜マリアナ諸島、と勢力を伸ばす気満々なのは解放軍報にもバッチリ載っているほど明らかなんです。狙いはどう考えても太平洋とインド洋。後者はビルマやパキスタンとの同盟やそれによる海軍基地の建設を考えれば明らかですし、太平洋の方もアメリカ軍に対して「半分に分けない?」と持ちかけ速攻断られたりしています。

万が一、中国海軍が太平洋、インド洋まで手を伸ばしたら、日本のシーレーンが非常に危険な訳です。日本、中国、そして台湾などアジアの国々は基本的に同じシーレーンを使っておりまして、それ故にどの国もシーレーンの安全は国益といってもいいほど気を使っている訳です。今までの内容を振り返ってみると、中国というのは非常に現実主義的に動いておりまして、シーレーンの防衛も元々は「他の国にそんな大事なルートを支配されてたまるか!」という精神な訳ですよ。そしてこれは日本にとっても同じ。現実主義的視点からすれば「中国がシーレーンを分断出来る能力を持とうとしているわ。危険!」という感じ。日本がもしこの考え方にそって行動するのならば、おそらく海上における支配権争いがアメリカなども巻き込みながら起こるでしょう。

じゃ、逆に中国非脅威論について。
1)経済依存
2)大国としての責任
3)民主化の可能性
4)実はそんなに強くない中国?

1)経済依存
経済発展による経済依存が高まれば、日本に対する敵対的行動は中国にもマイナスになるだろうというのが基本的な考え方。私個人も基本的に「経済依存アップ=戦争のリスク小」だと思いますが、あくまで戦争の話です。東シナ海の小島なんてくれてやらぁと思っていたら沖縄が取られてたとか、あんまり笑えない冗談なので、念には念を入れておいた方がいいと思いますよ。(←だから私はリアリスト派なのです。)

2)大国としての責任
「大国として国際政治上での責任が増せば、あんまり身勝手な事はするまい。」と人は言いますが、そう言う人に限って「アメリカは帝国的振る舞いをしている。許すな!」と叫んでおります。中国の場合はスーダンあたりがいい例です。

3)民主化の可能性
民主化した中国は平和を愛する友好的な国になるに違いないという考え方。実は言うとアメリカ政府もこの辺にかけているようなのですが、民主化したとしても多分本質的には何も変わらないでしょう。というのも、中国の軍事力の増加(特に海軍)は「経済成長」や「愛国心」によって支えられているものであり、決して共産主義的な理由からではないからです。尚かつ、中華思想が政治体制の民主化ぐらいで消えるとも思えませんし、民主化後出来立ての政府が国民の支持を取り付ける為に、更なる「経済成長」「愛国心」を求めて邁進する可能性もあります。非常にいい例がロシア。中国と同じくランドパワーの強国としてユーラシアに位置し、中国と同じく帝政後ほぼ直ぐに共産党政府に移行し、そしてソ連崩壊後のロシアは10年ほどの空白があったとはいえ、今では大国としての地位を取り戻すべくプーチン大統領の下、強権政治を行っています。中国が同じようにならんという保証がどこにも無い。確かに中国は共産党の元で経済成長を成し遂げたという違いがありますが、それがいかほどの違いを生み出すのかは非常に曖昧です。

4)実はそんなに強くない中国?
本当の所を言えば、台湾を侵攻することもできない、日本侵攻なんて夢のまた夢と言われていますが、なにせ量と成長スピードが桁違いなので安心しきって傍観する訳にもいかないでしょう。幸いと言っては何ですが、日本国内全体として、1991年以降、かなり保守的になってきているのでより多くの国民が海上の問題(特にシーレーン)について考え、その安全保障を支持するようになれば、暫くは大丈夫でしょう。

取り敢えず、こんな感じです。もう少し深く突っ込むのならば中国の国内情勢や北朝鮮、アメリカ、台湾情勢も考慮に入れる必要がありますが・・・今日はここまでにしておきます。基本的な内容は卒論がベースです。参考資料は上のbookstoreの「地政学・国際関係」や「洋書」にあるものが殆ど。

関連:中国はなぜ脅威だと思われているのか
こちらでの議論はもう少し、地政学的、理論的になっております。卒論の手直しの際の参考にしよう・・・日本の核保有もそうですが、海軍力(海上自衛隊)の増強もやり過ぎには注意が必要ですよね。戦前の歴史に学ぶものは多いと思う。

こちらは水曜日に雪になるらしい。スキーウェアのジャケットを着てもまだ寒い。

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