ジジェクのパンデミック論

 

ジジェクの本には全く歯が立たず、修行気分でとりあえず読みきった過去があるので、戦々恐々しながら読み始めたのだが、一部「?」はあったもののなんとかいけた。薄かった上に、時事問題だったのが勝因?なのか…とはいえ、時事問題ゆえか、それとも私がやっぱりジジェクの主張を理解できていないのか、文章としてまとめることができないので箇条書きで気になった点を挙げておきます。

  • 中国政府は人民を信用せず、人民も政府を信用していない。他の国においてもソーシャルメディアによる陰謀論、フェイクニュースなどの影響で、国民が政府を信用していない。これでは感染は止められないだろう。
  • 新自由主義では個人の内に階級がある。つまり、自分で自分を搾取している状態。ただし、同時にパンデミック下においては「1)西側先進国での自己搾取の労働」「2)第三世界の疲弊させる労働(製造業など)」「3)介護職やウェイターなど人をケアする労働」の3つの労働があり、2、3は昔ながらの「階級」でもある。
  • ヨーロッパを襲う3つの嵐は「1)コロナウィルスによる身体的影響(感染、隔離、死など)」「2)コロナウィルス拡大による経済的影響」「3)シリアで起きている暴力の嵐」であり、ロシアとトルコは石油だけではなく、難民の流れもコントロールしてヨーロッパに外圧を加えられるだろう。
  • 今現在は難民はコロナウィルスと結びついて迫害を受けていないが、万が一それらが結びついたら「科学的医療的な理由」で難民排斥を正当化できてしまう。
  • コロナ後の通常はコロナ前の通常とは違うだろう。ハグや握手をする余裕があるのは自己隔離できる特権階級のみで、一般庶民は「仕事に戻り」、ウィルスと生きていくことになる。
  • 「個人の責任」を重視するあまり、経済や社会制度をどう変えるべきかを見えにくくするならば、それはイデオロギーとして機能している。
  • マスクや人工呼吸器、ワクチンなどの分配、隔離施設の確保、失業者への手当てなどは市場メカニズムから離れて行う必要がある。これがジジェクのいう「共産主義」の出番。

個人的に面白かったのが「新自由主義では自分の中で階層闘争はじまっちゃってる人もいる」という部分。言われてみれば確かにね、と思う。それから「難民とコロナが結びついたら〜」部分に関しては、当初のアジア人への暴力事件など考えると既に危ない兆候があるのかもしれない。まぁ、アジア人に対しては、「コロナをうつされるかもしれない恐怖」から「コロナを発生させたこと(結果自分たちの生活が変わってしまったこと)に対する苛立ち」に暴力の理由が移行しているかもしれないが。

何れにしても、コロナで人的交流は減っているし、その分フェイクニュースなどに晒されやすくなるし、経済的影響はデカイし、新しい生活習慣は馴染めないし…でダークサイドに落ちやすい状況ではあることは間違いないでしょう。そうならないために、なにかわかりやすい処方があればいいのだけど、そんなものはないのがまた辛いところですね。

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