「中国4.0」の話

 

さて、昨日予告したので、今日はこの本について。Twitterにも書きましたが、この本は「気持ち良く読める人にはものすごく気持ち良く、許せない人には絶対に許せない本」だと思われます。要は中国に対してどのような印象があるかなんですね、評価の前提は。「ウンウン、そうだよね!そーだよねっ!」と今まで自分が持っていた薄らぼんやりとした頭の中の思いを、「あれが1.0、これが2.0、で今が3.0!」とカテゴライズしてくれて、ついでに中国の行動パターンについて「逆説的論理」とか「大国は小国に勝てない」とか、やっぱりカテゴライズして説明されると、まぁ、そりゃスッキリ爽快でしょうよ。逆に反対の見方をしている人には、ルトワック氏の論理が明確でシンプルだからこそ、論理的に反論しにくく、とりあえず怒るしかできないかと・・・え?私?基本スッキリ読めた派ですが、なんせ根性がひん曲がっている(ポジティブに表現するならば「大学時代にクリティカル・シンキングについて叩き込まれた」)ので、色々心の中で突っ込みましたよ。

じゃ、まずこの本の成り立ちについて。

ルトワック著『中国4.0』の制作秘話:地政学を英国で学んだ

訳者の奥山真司氏のブログによると、ちょっと長いですが引用すると

いよいよ来日して次の日にルトワック本人と一時間ほど滞在先の都内のホテルのロビーで話をするということになったわけですが、久しぶりに会って開口一番何をいうかというと、

本にするいいアイディアが浮かんだ。お前が翻訳して本にしてくれないか?

突然のムチャ振り。しかもその数日後には伊豆の伊東の温泉にいくので、そこでインタビューを行って本を完成させようなどと、かなり無理なスケジュールを言ってきたのです。

一瞬たじろいだのですが、ここは私の数少ない編集者つながりから文春の編集者に話をつなぎ、おそらく数回のインタビューだけでは単行本にはならないので短めの新書にしよう、という話になり、なんとか企画も通って実行決定ということになったのです。

その翌週に、私は彼とは別行程(私は修善寺からわざわざレンタカー、彼は三島からレンタカー)で現地集合して、一泊二日で伊東の温泉に泊まることになりました。

現地の温泉宿は「日本の温泉評論家」との異名をとるルトワックによるチョイスだったのですが、無名ながらもかなりのマニア度の高い、離れ部屋だらけのかけ流しの温泉旅館。私は彼のすぐ隣の小さ目の部屋を予約して、準備万端。

現地には1600頃ついて、さっそくルトワックだけ温泉につかり、私が風呂の外でICレコーダーを2台使ってインタビューを開始。すでに話す内容は決まっていたようで、『中国1.0』の第一章のほとんどは、お湯につかりながら収録した1時間ほどで修正なしでほぼ採用ということになりました。

 

個人的に奥山さんを知っていることもあるが、もうこれを読んだだけで、(離れに露天風呂という)伊豆のどう考えてもカップル向けのお宿の小洒落た小さめの湯船に浸かる、真っ裸のルトワックの横に傅いてICレコーダーを差し出す奥山さんのイメージが頭を離れないわけです。男二人、わびしくならなかったのかしら・・・?しかも、帯を見てもらえればお分かりの通り、ルトワック氏、腕超太い!ゴツいのです。そんな状況で「祇園精舎の鐘の声〜」ですよ・・・笑うしかないでしょ。この世にこんな方法で生まれた国際関係(しかもバリバリのリアリスト)本があろうか・・・英訳を出すときは、絶対に成り立ちを入れて欲しいわ。

んで、もう少し真面目に中身を見ていきますと、まぁ、最初に書いた通り、2000年以降の中国の対外的な行動を

  • 中国1.0=うまく「私危なくないです」アピールができたため、台頭しつつも周りの国の反応を抑えられた時期
  • 中国2.0=アメリカが経済的にコケたので、「(経済的にも軍事的にも)意外とイケる?」と強気になっちゃって、そしたら周りの国が「中国けしからん!」と反応し、結果野望果たせず・・・の時期
  • 中国3.0=というわけで反省して、出すとこ出して、ひっこめるところは引っ込めてみたが、やっぱり勘違いしてて失敗じゃない?という時期

と分けているんですね。まぁ、毛沢東時代はどうだったのよ?え?あれも中国だろうよ?と意地悪い考えも浮かびますが、あの時代はどちらかといえば、国内にしか目が向いてなかったんで、考慮外ということなのでしょう。で、中国が抱いている3つの勘違いが「1)お金ばら撒けば外国はいうこと聞くはず 2)アメリカは衰退し続けるし、中国は発展し続けるはず 3)二国間の関係を通じて思い通りの立ち位置をゲットできるはず」。あぁ、どれも悲しき勘違い。お金をばらまいても誇りを売らない国は出てくるわ、アメリカは持ち直して、むしろ自分ところの経済が曇り空になるわ、一番大事なアメリカとの二国間関係は構築失敗するし、東アジアの小国どもは結託するし・・・踏んだりけったりな訳です。この勘違いの元凶は、「人(国)は見たいものしか見ない」ということ。70年前の日本は物量差を見ないふりして精神論でイケると思った。2003年のアメリカも本当はないサダム・フセインとビン・ラディンの間の線を幻視してしまった。人の認識論が国にも当てはまることは、哲学的観点から大いに興味深いですが、ま、それは別の話。

とにかく、中国も「見たくないものはなかったことにして、見たいものを脳内で作っちゃった」というのが、失敗の原因なのです。しかも、国内の政治体制の仕組み上、民主主義国家にくらべて、国のトップに対して「それ妄想だから」という声も上がりにくい。習近平が国内で汚職撲滅活動を繰り広げているからこそ、暗殺の危機が・・・というルトワック氏の主張はちょっと納得できないというか、判断の基準を持ち得ていないけれども、もし氏のいう「パラメータ」が、中国ん千年の歴史に基づくのであれば、易姓革命なんてのも起こりうるわけで、さてそれは軍部からだろうか?それとも、怒れる民衆からだろうか?

んで、そんな中国に対する日本へのアドバイスは「ちっさい島程度じゃ、アメリカ動かないし、頼る前に自分で柔軟に対応できるようにしな!」というもの。これまた正論すぎて、「でもその正論を実行に移すまでに、自衛隊関連の法整備やら、外務省の柔軟性やら、お先真っ暗なんです!」という言葉を飲み込んじゃうレベルですね。この辺、あんまり説明されていないのです。それがまた「自分でなんとかしな!」ってスタンスを貫いていて、身にしみる・・・ほんとにどうしよう・・・

 

最後に、本書の一番の「逆説(パラドックス)」。

 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

「私は中国の本について読んでいると思ったら、いつのまにかルトワック氏のロシア論を読みたくなった」

な… 何を言っているのか わからねーと思うが

私も 何をされたのか わからなかった…

頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか宣伝だとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

多分プーチンの魔力だ。きっとそうだ。しかもルトワック氏、ロシアについてまとまった本がないのよね〜「ロシアは戦略を除いてすべてダメだが、中国は戦略以外はすべてうまい」とまで言われちゃ、その立派なロシアの戦略について、読みたくなるのが人の道理じゃありませんか。是非ともお願いしたいです。ほんとに!まじで!真剣に!

 

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