Yes、崖っぷち!「核戦争の瀬戸際で」

クリントン時代の国防長官だったウィリアム・J・ペリーによる自伝。Twitterで小泉悠先生がおすすめしていたので、興味を持って借りてみた。何点か気になったり思ったりしたことがあるので、メモ。

その1)アメリカ政治家の自伝ってみんな似てるなぁ・・・と思った。まぁ「似ているなぁ」と言っても、似ているのは経歴で、実際に起こった出来事や時代はもちろん違う。例えば今回のペリーだと、軍所属→大学→企業(当たり前だが、国防長官をそのうちやるような人は、気が付いたら、取締役だとか理事とかになっている)→政府のポスト(上の下くらいのポスト)→民間企業(やっぱり取締役とか)→長官→知名度を生かした大学での活動やら諸々・・・ブッシュ時代のラムちゃんはこれに下院議員を追加したくらいだし、チェイニーだって同じようなもん。省庁のトップが議員経験が必要なわけでもないし、むしろ民間経験ないなんて!といった空気を感じるのが、さすがアメリカなのかしらね。

その2)中国はどした?冷戦直後という国防長官になったタイミングの問題もあるだろうが、この本は国防長官退任後活動にも触れられているわけで、2014年くらいまではカバーされている。のに、核に関わることは、ロシア、北朝鮮、パキスタン、インド、イランについて。まぁ、イギリスとフランスは同じNATO加盟国だからいいとしても、中国の存在をあまりにお忘れじゃなかろうか?しかも、国防長官の任期中に第三次台湾海峡危機が発生しているにも関わらず、ほとんど触れられていない。ハイチへの無血侵攻は1章当てられているのに。プーチンのロシアと同じくらいに危険視しても良さそうなものだが、スルーされちゃ、なにか書けない理由でもあるのか?と疑いたくもなります。

その3)ナン・ルーガー法について、どこかで読んだことがあると思って調べたのだが、実際は全く違っていた。15年近く前、ジョンズ・ホプキンズ大学のサマーコースで「Weapons of Mass Destraction」という、とてもニッチなコースを取っていたのだが、そのクラスの課題書の一つが、「Nuclear Terrorism」という本だった。それに、ソ連解体後の科学者&核物質・核兵器の流出が問題、アメリカ超頑張った!と書いてあった気がするのだが、目次にも索引にもそれっぽいものがない。勘違いだったのか、それとも同じクラスの他の課題(プリントも多かった)で読まされたのと混ざったか・・・気になるが、プリントは取っていなかったはず。それはもうアホみたいにプリントアウトしていたのに、勿体無いことをした。教科書はほぼ手元に残しているんだけどな。

4)核の問題は、その破壊力はもちろん、次に一発使われたら、一気にハードルが下がってしまうことにある。が、今は最初の一発のハードルも下がりつつある、それを公言する国もあれば、公言するまでもないテロリストも核を狙っている、という状態なのに、世界の大多数が核戦争・核紛争を本気にしていない。まぁ、だからこそ、強気なことを言える政治家も出てくるわけで、市民の啓蒙は継続して行う必要があるだろう。この点は、ペリーの主張に完全同意。同時にこの本からきちんと読み取らなければならないのは、この本は「反核兵器」であって、「反核」ではない。一言たりとも、原発には触れられていないのだ。 [1]正確に言うと、北朝鮮の核開発がらみで軽水炉の話が出てきたくらい。あえてなのか、素なのかは不明だけど・・・

核兵器と原発は廃絶に向けた計画もタスクも全く違うのだから、明らかに殺傷目的である兵器の削減、廃絶をまずは目指すべきだと思うのだが、いかがだろう?日本に核兵器はないが、核兵器はグローバルなものだから、「持っていないから関係ない」とはいえないし、この世界で人を殺す目的で核兵器を落とされたのは日本だけである。日本政府も、核兵器については(一応)後ろ黒いところがない立場&唯一の被害国なんだから、この点については強気に発言すりゃいいのに、と思う。ま、それをやったらやったでこじれるのが国際関係。面倒ですね。

References

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1 正確に言うと、北朝鮮の核開発がらみで軽水炉の話が出てきたくらい。

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