大戦略とは歩く道の決め方 ジョン・ルイス・ギャディス「大戦略論」

「戦略」と言えば、軍事戦略、国家戦略、ビジネス戦略辺りがパッと思いつく。同じ「戦略」という単語を使っているのに、扱っている分野が全然違うため、「戦略」というその単語自体が分野によって、その意味するところや定義が微妙に違うのではないか?と思ったりすることもある。今回のギャディスの「大戦略」は、どちらかと言えば軍事戦略、国家戦略に近いのだろうが、「大」戦略なので、それにとどまらない内容だ。むしろ、バリバリの軍事戦略を期待して読むと、第4章で出てくるアウグスティヌスあたりで躓きそう。章立てとしては、歴史の古い順に、同時代とは決して言えないが、遠くはない(でもたまに遠い)時代の複数人をピックアップして流れるように進んでいる。リンカーンだけは、ギャディスが非常に高く評価していることもあり、一人だけフィーチャーされている。 [1]同世代の他の政治家や、他の時代と比べていなくもないが。個人的には、ギャディスの言わんとしていることがよくわかる章と、意図を掴みかねる章の差が激しかった。

さて、肝心の内容だが、一言で言えば、大戦略とは「目標を持つこと。しかし、同時にそこに至るまでの道のりは柔軟であること。そして時間を味方につけ、違うスケールで状況をみること。」である。崇高な目標は素晴らしい。でも、そこに一直線に突き進んで、沼にはまるのはいただけない。同様に、足元ばかりを気にして、沼どころか水溜りまで避けて迷走するのも意味がない。避けるべき沼なのか、飛び越えてまっすぐ進むべき水溜りなのか、判断が必要なのだ。「急がば回れ」な時もあるし、勢いで突き進むこともある。いま、どちらが求められているのか、様々なスケールで検証が必要で、目的と手段の「釣り合い」を取ることが、大戦略なのだ。

これは決して難しいことではなく、ビジネス戦略以上に身近に戦略を引き寄せることができるのではなかろうか?ペルシャ帝国のクセルクセス一世から話が始まり、FDRで話が終わるため、あたかも軍事戦略や国家戦略を歴史から学ぶ風ではあるが、結局「目標に至るまでの歩き方」「ものの見方」についてなのだ。つまり、この本は日々の生活にも応用可能と言える。まぁ、マキャベリぽい人が身近にいると、なにかとやりにくいだろうが・・・

正直なところ、一般読者はともかく、ビジネス戦略に関する本を求めている人でさえ、本書を手に取ることはなかろうが、この本は多分そっち向けなのだ。逆にバリバリの軍事戦略を期待すると、拍子抜けするだろう。

References

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1 同世代の他の政治家や、他の時代と比べていなくもないが。

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