小説「the circle」 行き過ぎた共有社会は独裁の始まり?

 

哲学ガエルのクラウス君たちに語らせようか、と思ったんだけど、メタ情報都合というかなんというか、普通に書くことにしました。

さて、私がDave Eggersの小説「the circle」に興味を持って読み始めたのは、アメリカで映画が公開されたからなのだが、英語版で読んだのは単に「たまには英語で読まないと、(英語力落ちたのが)バレたら両親に留学代返納を言い渡される」というしょーもない理由からなのだった。 [1]ちなみに同じ理由でたまにリスニングもしてます・・・実はネタバレしない程度に事前リサーチをしていたのだが、そんなに最後の瞬間のネタバレ書いてるネタバレがないんですよね。なので皆さんも気兼ねなく検索して大丈夫です。多分。そして、読み終わった後に気がついたのだが、この著者、前に同じく英語で読んだことがある。 [2] … Continue readingそっちはそっちで、スーダンのロストボーイズを取り扱っていて、なかなか考えることが多い本だったが、毛色が全然違うからわからなかった。

んで、読後の感想はこちらこちらにほぼ同じ。一言で言うと「本当に気持ち悪い会社だな!」である。えー、それだけ?はい、それだけです。「会社内同好会のお誘いに返信をしない」から上司に呼び出される、「週末の会社内イベントに出ない」から上司に呼び出されれる・・・うえぇ。私はGoogle的仕事環境(ミーティングスペースとか)に憧れる一方、ザッポスなどの会社への意識高いキラッキラなコミットメントには、ついていけない・・・と感じるタイプなのだが、そんな私がこのcircle社に入社したら3日で全身蕁麻疹を理由に辞めるだろう。いくら自分が働いているからって、会社とそのサービスにそこまで依存する必要はないと思うのよね。

もう少し真面目に書くと、英語で読んだからかもしれないが、「circle→イニシャルはC→cirlcle(Cそして円)を閉じる→丸(出口なし)」という、その辺の流れがうまいと思ったりしました。日本語訳版は手に取っていないので、どのように翻訳されているのかわかりませんが、なんとなくこの「うまい!」と言いたくなる気持ち、わかっていただけないだろうか。多分、日本の大学の「サークル」あれを想像すると、半分くらい正しくて半分くらい違う。正しさの部分はあの「ウェーイ!」なノリですね。恋愛も人間関係もあの中で共有されていそうな・・・と言っても、ま、私、大学時代は真面目に学生をしていたので、よくわからないんですが。 [3] … Continue reading違う部分は、「円環が閉じる」という部分。大学のサークルは閉じそうで閉じない・・・気がする。

真面目な話をもう一つすると、この小説は「華氏451度」の真逆のオチではないか?と気がついた。あっちは本を愛好する正しい認識を持った主人公が、「本は焼却すべし!」な都市や社会を捨てて荒野に逃げ、その後、都市が核戦争でぶっ飛ぶのを眺めてお終いだったが、the circleの方は荒野に逃げた方が死に、おかしな社会の方は生き残ってジ・エンドである。あぁ、だからますます気持ちの悪い、後味の悪い小説だと言われるのだ。正しい方が勝たないからね。

そして、いま「正しい方が勝たない」と書いたが、circle社の人間は皆クソ真面目に「自分がやっていることは正しい!」と思っているからタチが悪い。パッと見は正しいのです。「つながると嬉しい」「ビデオカメラを設置して人に見られる環境になれば犯罪や独裁は無くなる」「政治家が一日中カメラをつけて、その行動を公開すれば、汚職はなくなる」そりゃ、おっしゃる通り。私も含めて承認欲求はあるものだし [4]このブログの下にいいねボタンがあるのがいい例だ!そもそもブログをずっとやっている時点でお察しだ!、カメラが犯罪や独裁抑止になるのも間違いない。決済も選挙も同じウェブサービスでできる?wow!利便性もサイコーね!というわけである。が、ここに落とし穴。circle社のサービスは根本的に人の善を信じていないのである。なのに人の善を訴えている風だから矛盾が生じているのだ。例えばウェブカメラ。「カメラがあれば、人に見られているとわかっていれば、罪を犯さないだろう?」と問われて、主人公は「その通り」と答える。でも、「カメラがないと罪を犯すかもしれない」人間はそもそも善い人間なのだろうか?善くない人間をむりやりカメラで善い人間に仕立てて、そんなニワカ善人が集まった社会は、本当にcircle社のいう善い社会なのだろうか?

もし、そうだとcircle社が言うならば、それでは全体主義でしかない。ナチスでもスターリンのソ連でもいいが、あれらの考えも、一部の人はその対象から排除されていたが、所属する社会に対する善意もどきが最初の頃どこかにあったはずだ。ベルサイユ条約と不況に苦しむドイツ人にとって善い社会を!ロシアの抑圧された民衆のために共産主義を!というわけで、結果はご存知の通りである。中途半端な善 [5]善は善にしかなりえない。つまり、中途半端な善は悪とも言える。が社会を覆うとロクなことにならないのだ。circle社の経営陣の野心については、詳しくは語られていない。一応「全くの善意」と書いてあるが、裏では世界征服をたくらんでいても、正直驚かない。でも、それに踊らされ、最後の最後の最後のチャンス [6]作中、何度か正気に戻るタイミングはあったのだ。をフイにした主人公のメイ、ありゃ単なるバカです。自分がカメラがないと正しくない行動出来ない程度の人間ということに目をつむり、自分の行動を全て公開、視聴者の数に一気しているような大バカ者です。つまりバカに変なモノ持たせると、(例えそれが善意であろうと悪意であろうと)持たせた側の思惑に乗せられていい駒になる・・・といういい例だ。結局、人は自分で正しく考えられる程度に賢くあれ、ということなのでしょう。今時難易度高いね、これ。

 

References

References
1 ちなみに同じ理由でたまにリスニングもしてます・・・
2 こちらは純粋に日本語版が出てなかった。確かナタリー・ポートマンが雑誌の読書特集で勧めて興味をもったのだ。昔感想記事書いてます。探してみてください。
3 テニサーとかに所属している自分を想像できない。「大学デビュー」したくて背伸びして入るかな?とかも想像したが、実際入らなかったし、やっぱり入りそうにない。
4 このブログの下にいいねボタンがあるのがいい例だ!そもそもブログをずっとやっている時点でお察しだ!
5 善は善にしかなりえない。つまり、中途半端な善は悪とも言える。
6 作中、何度か正気に戻るタイミングはあったのだ。

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