ルトワックの「戦争にチャンスを与えよ」

「眼光で人殺せそう」「凄い二の腕」という印象のエドワード・ルトワック、最新刊ではとうとう肘鉄で人を死に至らしめちゃったかも・・・と告白している、 [1]しかも偶然ではなく、ぶつかって相手にムカついたから肘鉄食らわせたらしい。いかついおじさんであるが、彼の邦訳本は過去3冊出ており、私は3冊とも読んでいる。簡単に読後の感想を説明しておくと、

  • 戦略論:勉強会のために、本職の人に負けてはならぬと必死に読んだが、なんせ分厚く、そして「何をまたまた〜」と言われそうだが、軍事用語に疎いため、 [2] … Continue reading意味を把握しきれない。挙げ句の果てに、やっとこさ読み終わって、勉強会も終わったと思った直後に、別の本職の人から「自分も読み始めました。わからないところがあったら、聞いてください^^」「あなたはどう解釈しますか?」などなど…と、連絡が入る始末。苦労した記憶しかない一冊。
  • 自滅する中国:大変言いにくいのだが…印象が薄い…のだ…
  • 中国4.0:これ

と、まぁ、要は新書しかきちんと理解できていないというか、私の理解能力は新書レベルだったというか、惨憺たる結果である。そんな脳みその私に、ルトワックと訳者の奥山氏は救いの福音書をもたらした。過去のルトワック論文や新規インタビューが新書にまとめられて出版されたのである。読まないわけにはいきませんよね。というわけで読みました。

まず、タイトル。「戦争にチャンスを与えよ」だなんて、人によっては憤死するのではなかろうか。挙句に帯には黒背景赤字で「国連・NGO・他国の介入が戦争を長引かせるのだ!」と全方位に対して喧嘩を売っている。その辺の説明が最初の2章で説明されているのだが、要は「戦争っちゅうもんは、やりきって疲れ切らないと、火種が残る」ということですね。双方まだ完全に戦う意思を失っていない状態で戦争が終わってしまうと、その「戦う意思」が残ったまま生活が続いてしまい、子供や孫にもその意思が伝わり、結果として半戦争状態のままになる、と。例えば、バルカン半島や朝鮮半島、そしてアフリカの国々。そしてパレスチナ。例は事欠かない。まぁ、おっしゃる通り。その当時の人間ではないので、実情はわからないし、そもそも戦争というのは集団の母数も大きいため、所属している人間全員の意見が一致していることはありえないのだが、1945年の日本の降伏は、あれは戦争をやりきったことになるのだろう。なお、いくら厳ついとはいえ、ルトワック氏は別に「戦争をやりきるために、相手国を皆殺しにしろ!ヒャッハー」と言っているわけではない。念のため。

んで、じゃ、なんで最近の戦争は戦争をやりきっていないのか?ということなんだが、そこまで詳しく書かれてはいないものの、やはりメディア(特にテレビ)の発展が大きいのだと思う。そりゃテレビで「戦争による孤児」のとか映されちゃ、「戦争はよくない!こんな孤児を生み出す戦争を止めねば!!」ってなります。多分、戦争をやりきっていた時代の人も、我々が見たものと同じものを見れば、同じように反応すると思う。現代人が特別人道的なわけではないのだ。まぁ、ベトナム戦争あたりからリアルな戦争がお茶の間に流れ始めた・・・はずなので、戦争の泥沼化・中途半端化のタイミングと符合するはず。で、ここで悲しいのは「テレビの中は所詮、戦争の上面」ということ。どんなにテレビで情報を得ていても、それは実際に起こっていることの一部でしかない。それを元に判断するから、中途半端な介入をしてしまうのでしょう。とはいえ、じゃあ戦争を完全放置して「いーよ、いーよ。思う存分やってね」と言えるかといえば、いえないのがこの社会。今後も人道的介入は増えていくに違いない。

3〜5章は東アジアの情勢について。大丈夫だろう・・・と楽観しているそのこと自体が、相手に変なメッセージを与えてしまい、戦争に繋がるリスクが増えるんだよ、というお話。で、6章以降がもう少し抽象的な「戦略論」とか「同盟論」の話で、最後に日本が常任理事国入りするための秘策で〆、というのが本書の構造。なんで、ここにきていきなりすっとばし始めたかというと、一つ一つ取り上げていると、とても長くなるからである。追々また別にまとめるつもり。あ、でも、8章「戦争から見たヨーロッパ 「戦士の文化」の喪失と人口減少」については、「うーん、極論なような・・・」と思わなくもなかったのだが、今の私には何も言う権利がないというか、「お前が言うな!」と突っ込まれること必至なので、ノーコメントです。そして、読みきった後、「今なら戦略論に再チャレンジできるかも・・・!」という考えが一瞬脳内をよぎったことを告白しておきます。

 

    

 

References

References
1 しかも偶然ではなく、ぶつかって相手にムカついたから肘鉄食らわせたらしい。
2 「世間一般普通の30代の女」に比べれば、断然知識があることは一応自分でも自覚している。が、専攻は国際関係論であり、持ってる知識としても哲学、神学、歴史の方がミリタリー系よりは上なのだ。みんな、比べる対象が悪いんだよ。

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