Archive for the ‘本について’ Category.
2020-06-08, 22:38
如何に通勤時間が自分にとって大事な読書時間であったか実感するこの頃。今回はかなりサラッとですが、最近読んで面白かった本のご紹介。
こちらの本は近代19世紀末から戦中あたりまでの極東アジアの感染症について取り扱っているのだが、多分一番の読みどころは「如何に感染症が政治化したか」という部分。COVID-19でもそうだが、感染症と言うのは、国民の私的な部分まで行政が入り込まないと防げない。「出歩くな」「握手をするな」「清潔にせよ」「家に帰ったら手洗いをせよ」などなど。19世紀末においては、租界などの防疫を通じて中国に対する影響力を増やしたい諸外国と、それを防ぎたい中国(清・中華民国)の攻防があった。
元々、国家的な衛生政策を担う官庁のなかった清王朝。その理由として、他民族である漢人を支配するにあたって、地方行政の細かい部分には介入せず不満を和らげ、また政府維持のコストを下げるためでもあったが、いざペストなどの感染症が発生すると、機能不全に陥ってしまっていた。そこにつけ込んだのが諸外国で、まぁ、中国も徐々に「こりゃいけない」と衛生行政の整備をはじめた。その中国政府が参考にしたのが、帝国日本モデルの警察力の強いもの…と話は続いていくのだが、私が特に感心した部分を抜き書きしておきます。
アーノルドは、英領インドの衛生事業のあり方を詳しく検討し、その歴史的特徴を「身体の植民地化」(colonizing the body)という視角から位置づけました。この研究は、衛生事業の制度化を植民地主義の功績としてとらえる見解に対して異議を唱え、むしろ医療・衛生事業の整備こそが植民地統治の重要なチャンネルであったという考え方を提起しました。(中略)
ロガスキーは、アーノルドの議論を受けて、中国における衛生事業の制度化の過程を個人の健康の維持という「身体の保護」から中国という民族や国家レベルでの「民族の防衛」への変化として位置づけたのです。それは、「身体の植民地化」への抵抗でもありました。
P36
さらに国内での衛生的階層の発達について。
この記事には、いくつかの重要な問題が含まれています。ハルビンでの対策の効果を確認したのち、ロシア租界で実施されている中国人への差別的対策を非難しています。同時に、中国人のなかで階層を明確に分け、種痘を接種している衛生的で富裕な人びとはロシア人と同様の扱いをされるべきであると主張しているからです。
このことは、感染症対策をめぐって世界各地で進んだ、衛生/不衛生、文明/野蛮、そしてその基礎となる富裕/貧困、という二分法が中国社会にも受け入れられつつあったことを示しています。もちろん文明/野蛮、富裕/貧困という二分法は中国社会にも古くからあるものでした。しかし、この時期にこれに衛生/不衛生が加わることになったのです。
P43
とまぁ、こんな感じで、まだまだ世界が全体的に狂乱の中にあるので中々見えてこないが、恐らく今回のCOVID-19も、マスク外交だとか、賠償だとか、すでに始まっているものも含めて、これからどんどん政治化するのだろうと思う。他国に対する防疫行政における影響力という面では、おそらくというか確実に舞台はアフリカ。中国は(今までのアフリカ開発の流れで)感染症対策の協力で影響力を増すことができるのか、それとも他の国がアフリカに支援しつつ、影響力を増すのか。中国はすでに中国本土におけるアフリカ出身者に対する差別が反発を招いている上に、そもそも今回のパンデミックが中国発というハンデがある。個人的には、ここは他の国、できれば日本に頑張って欲しいと思う。
2020-05-07, 10:00
☆:読む前に読んだ本
★:読んだ後に読んだ本
谷川健一「常世論」1322夜 萩原秀三郎「稲と鳥と太陽の道」1141夜 大林太良「正月の来た道」451夜 山折哲雄「神と翁の民俗学」1271夜 山本健吉「いのちとかたち」483夜 丸山眞男「忠誠と反逆」564夜
清少納言「枕草子」419夜 ☆ 和泉式部「和泉式部日記」285夜 西行「山家集」753夜 堀田善衛「定家明月記私抄」17夜 鴨長明「方丈記」42夜 ☆ 吉田兼好「徒然草」367夜 ☆ 唐木順三「中世の文學」85夜 尼ヶ崎彬「花鳥の使」1089夜
大隅和雄・西郷信綱ほか編「日本架空伝承人名辞典」415夜 三浦祐之「浦島太郎の文学史」635夜 石田英一郎「桃太郎の母」1244夜 近藤信義「枕詞論」1599夜 伊地知鐵男「連歌の世界」739夜 心敬「ささめごと・ひとりごと」1219夜 西郷信綱「梁塵秘抄」1154夜
ドナルド・キーン「百代の過客」501夜 ☆ 渡辺京二「逝きし世の面影」1203夜 ☆ ウィリアム・バトラー・イエーツ「鷹の井戸」518夜 アレックス・カー「美しき日本の残像」221夜 ロジャー・パルバース「もし、日本という国がなかったら」1545夜 李御寧「「縮み」志向の日本人」1188夜
「枕草子」「方丈記」「徒然草」は当然のように(!?)、現代語訳で読んでます。
2020-05-05, 19:01
今頃は実家で甥っ子と一緒に将棋を指して、ボロクソに負けているはずだった…のだが、お互い外出自粛で家から出れない。しょうがないので、ZOOM飲みしている父を羨ましく思った母に付き合ってLINE飲みしたり 、エアコミケにあやかっていろんな人の絵を見たり、突然courseraでロシア史の授業にエントリーしてみたり、英単語を勉強したり、本を読んだり、月曜断食を始めたり、これらの合間合間にイヤイヤ仕方なくしょうがなくやむを得ず仕事したり、要は結構フリーダムに自粛生活を過ごしている。元々思いっきり温泉旅行とか海外旅行といった非日常的な遠出は好きだが、ちょっと新宿で買い物…みたいな外出はしないタイプである。つまりは今のところ「温泉行きたいー」という思いにさえ目を瞑れば、結構楽しく過ごせるはずで、その「結構楽しく」を実践した結果が上記の通り、節操のない状態なのだろう。因みに家に溜まってる教科書も読み込もうとしている。忙しくって自分が3人くらい欲しい!
さて、今読んでいる本は高山宏の「トランスレーティッド」である。916ページにわたり、高山節としか言えない言葉の奔流でパラドックスだとか道化だとかマニエリスムだとかが語られる、語られる。今まで英文学にノータッチだった我が人生、自分の知識では太刀打ちできない…けれど、解題集なので似たようなことが繰り返し出てくるからこれも勉強とフムフム読んでいる。出てきた名前を繋げていったらさぞかし面白いと思うが、すでに300ページ弱読んでしまったので、これからやり直すのはちときつい…いや、勉強ならばやるべきか…
それはともかく、何点か「おっ」と思ったことがあったので、ここにメモしておく。まず、この本の中で語られる世界というのは、実はこのブログで目指している世界に近いのではないか?ということ。まぁこれはちょいちょい文中に出てくる「驚異部屋(Wunderkammer)」からの連想というだけなんだが、(癖はあるものの)高山宏氏の学魔っぷりには実際憧れる。私の「驚異部屋」の発端は荒俣宏だが、まぁW宏は繋がっているので、無問題。プラス松岡正剛(と、佐藤優。毛色がだいぶ違うが最近は安田峰俊、山下泰平両氏も勝手に応援中)を加えた3学魔については、以前講演会の様子をアップしているのでそちらを参照ください。
高山宏単体については「超人 高山宏のつくりかた 」を読んでの感想を以下の記事にまとめている。因みに「超人 高山宏のつくりかた」は今回「トランスレーティッド」を読み進めて、「今買わねば、いつ買うの!?」って気分になったんで買いました。(前回は図書館で借りてた。)10万円貰えるというのはなんと気を大きくすることか…
あと今まで読んできた中で一番「それーーーっ!!」ってなった箇所を引用しておきます。この「合わせ鏡の彼方にある語り得ぬもの」って、私の世界の見方 と一緒ではないか!いやはや、全く同じ表現をする人がいるとはね…少し自信持てちゃうな。
多分パラドックスのもつ意味は、即ちわれわれに<彼方>の存在を自覚させることである。語りに語り、自己を狂おしいばかりに合わせ鏡に重々交映させながら、その巧緻精妙な言語構造(”Figurationen”)はいやが上にも己が<限界>をきわ立たせ、<彼方>に「語り得ぬもの」の存在をきわ立たせなければならないのだ。
P73
ここまで300ページ読んでも、後600ページある。学魔に囚われたお姫様役に戻るとするか…
2020-04-18, 10:16
先日テレワークについてあれやこれや所感を書いたが、とうとう「こういう状況なんだから困ったことは自分から言いましょうね。オフィスいるみたいに私も空気察して…とか出来ないんだからね。それとも毎日ずっとカメラオンにして、私に監視されたい?私もそんなの正直めんどくさい。」と言い切ったダメ上司に成り下がってしまった。でもさー、ずーっとカメラ監視するのも地獄じゃね?中国の監視カメラの担当者はよく耐えれるな。 テレワークは自主性と信用が大事ね。
さて、そんなダメ上司の方はと言えば、相変わらず読書時間の確保に四苦八苦している。ランチ時間、ちょっとした空き時間もとい休憩時間、夜寝る前の時間を読書時間として定めているが、ランチ時間や休憩時間はあってないようなものである。(チャットの通知が鳴り止まない…)ので、テレワークのおかげで増えた夜の時間が主力である。が、うちにはソファなどない。ベッドの上で読むしかない。となると、寝落ちするまで如何にページ数を稼げるか?稼げるような本を選ぶか?「そんな必死になって…本なんでゆっくり自分のペースで読めばいいじゃん」という方、あなたは我が家の積読の量を知らない。積読一軍だけで、今調べたところ、60センチのタワーになっている。人生は短い。急がなくてはならないのだ。
と、まぁそんな感じで、ミシェル・ヴォヴェルの「死とは何か」下巻 は早々に諦めて、読みやすい本をメインに読んでいる。まずはTwitterのタイムライン界隈で評価の高かった君塚直隆「エリザベス女王」。この本で一番勉強になったのがコモンウェルスについて。本の中でコモンウェルスそのものについて詳しく説明されているわけではないのだが、結構大きな組織?の割に、あまりニュースにならないのはなぜなのか…そして英連邦王国についても、私は「あ…オーストラリアやニュージーランドの君主はまだエリザベス女王なのね…」というレベルの知識しか持ち合わせていないことが発覚した。これでも国際関係論が専攻だったが、そこらへんがまるっと抜けているということは、私の勉強の範囲に偏りがあったか、それもと「オーストラリアの君主はエリザベス女王である」ということが国際関係上そんなに影響ないのか。ま、前者だな。
その他、ダイアナ事件についても、王室が「あ、謙虚にやるじゃダメなのね。ちゃんと『私らチャリティーとかめっちゃやってますねん』ってアピールしないとダメなのね」って気がつくキッカケになったり、「電撃結婚に近かったダイアナとは違い、7年近く付き合ってるんだから大丈夫だろう」と庶民階級とのキャサリン妃との結婚を認めたり、身に着ける宝石に意味を込めたり…と、細かい部分がやたら面白い。なにより、エリザベス女王はきっちり政治をやっている。王室外交の価値を自覚してやっているし、相手方もその価値を認め敬意を示すからうまく回っている。本の中ではダイアナ事件の前後がエリザベス女王にとって、一番辛い時期だったと扱われているが、2019年〜2020年にも王室スキャンダル(アンドリュー王子の売春問題、ヘンリー王子の王室引退)に見舞われている。今後も女王陛下からは目が離せませんね。
で、今読んでいるのは、「『銀河英雄伝説』にまなぶ政治学」である。というよりむしろ、「政治学の視点から銀英伝を楽しむ」に近いのだが、これがなかなか面白い。まだ読みかけなので、感想は後日に回すとして、一番笑った箇所だけ紹介しておく。
設定を踏まえていえば、銀英伝本編の約三〇年前に造られたのがイゼルローン要塞なのである。本編でも詳しく書かれているわけではないので誤解しがちだが、イゼルローン要塞は、たかだか築三〇年の代物である。築四〇年のアパートに住む筆者から見れば「築浅」である。
P88
2020-04-02, 23:10
新型コロナウィルスである。というか、もう新コロしかないんである。苦手なマスクを付けたり、リモート環境のエクセルの扱いにイライラしたり 、通勤時間分本読めなくなると気がついてしまったり、テレワークの場合どのように定時を死守すれば?と悩んだり、そういう日々を過ごしております。あと、全然関係ないけど、実家との本の被りが激しいので、このブログを共有するかも悩み中…
と、今夜は不真面目でしかない悩みを抱えながら読んでいる本のご紹介。
Amazonで「死とは何か」で検索してもシェリー・ケーガンの本ばかりだが、 こちらは歴史学の視点で、中世以降の死を扱っている。殉教者のイメージが消えて、聖人たちが平穏に死を迎えるにつれ、復活のイメージも変わってきたり、など。著者はフランス人アナール派に連なるお方。なんとなくそういう感じの文章である。デカい・重い・(お値段が)高いの三重苦本だが、人々が死をどう扱っていたかに興味ある人にはおすすめ。もちろん、西洋の話です。日本の死生観について、歴史的にまとまった本はないのかな。同じ時代で照らし合わせて読んでみたい。
こちらも別にそういうつもりじゃなかったけど、最近の状況にぴったりなタイトルの本。お風呂本として読んでます。ビジネススクールの教授だからだろう、最初の方に収録されている書評や解説にちょっとめげそうになるけれど、一介の会社員としては、たまに「おっ」ってなる部分がある。「一生懸命働くのではなく、賢く働く」「自尊心が強い「大きな私」は、常に飢えに苦しむ。」など。聞かせてやりたい、やつがいる。合間あいまに差し込まれる軽ーい調子の読書案内(?)読書スタイル案内(?)も結構面白い。
こういう時期だからこそ、本をバリバリ読んで行きたいな。で、落ち着いたらどこか電車にのって温泉に行き、やっぱりノンビリ本を読みたい。心置きなくそういうことができる日が早くきますように!
2020-03-07, 22:29
「試される私の左手首と忍耐」、そんな本だった。やっと本日読了。国際線の行き12時間+7時間、帰り5時間+8時間をぶっ込んで、なんとか読み終えた。
左手首が試されたのは1100ページ超えてて重かったためで、忍耐が試されたのは、以下のような文章を苦手に感じたためである。「一文が長くね?すっごいコネコネしてない?」と思うんですが、いかがでしょうか?
雨は降らないだろう、たとえ降ったとしても。と自転車を漕ぎながら僕は考えていて、山手通りをまっすぐ行って、246ではなく淡島通りを行きたかったので右に折れてまっすぐ、左手に学校やらマンションやらがあるところを、もうすっかり暗くなった道を、濡れている道を、進みながら考えていた、雨は降らないだろう、たとえ降ったとしても。そうやって三軒茶屋のコーヒー屋さんの焙煎所に寄って今日焙煎された豆を受け取って、ほんのわずかな時間、スタッフへの方に質問、それに対する回答、を経て出ると、雨がさーさーと降り出して、降り出していて、雨は降らないだろう、たとえ降ったとしても、と思いながら目を細めながら滑らないように気を配りながら、雨は降らないだろう、たとえ降ったとしても、と思いながらどんどんと濡れていった。下北沢の駐輪場に自転車をとめて、雨に濡れた体が冷たくて、それでB&Bに行った。
特に何を探すべくでなく並べられた本を眺めたい、と思ってB&Bへの行き方はいつもだいたいそういうふうで、というかそういう状態のときに行きたいところで、だからそうやって行った。
P54-55
まぁ、これは単に私との趣味の違い故だろうとは思う。私はそもそも小説をあまり読まないし、読んでも日本のだと田中芳樹の銀英伝か小野不由美くらいで、海外だとロシアや東欧系が多く、たまーにアメリカ文学に手をつけるくらいである。対して彼は私が何度も挫折したジャンルである南米文学がお好きなようだ。これは、合わない。全然合わない。大体、私は下北とか行かないし、B&Bもいったことがない。ああいうオシャレな本屋に気後れするタイプなのだ。じゃあ、なんでそんな本を読み始めたのか?と言えば、なんとなくこのブログの一つの解になるんじゃないかと本屋でパラパラめくった時に考えたからです。解にはなってないけど、参考にはなった!なのでよし!あと、国際線(しかもドバイ&チュニス間)のフライトアテンダントのおねーさんが「すっごい可愛い表紙!アンティークブック?」って聞いてきて面白かったので、よし!
「フヅクエ」についても興味は湧いたのだが、メニューの前にある長ーい説明文、あれにビビっているので多分行くことはないと思う。我が家は今のレイアウトだと壊滅的に本を読みにくい状態で、それ故に一人用のチェアでも買おうかなと考えているくらいなので、ゆっくり本が読める環境というのは喉から手がでるくらい欲しい。その点、飛行機は最高だった。本を読むためにまた乗りたいくらいである。そんな私だがやっぱり「フヅクエ」には行きづらい。大体、初台ってのが最高に行きにくいのだ。中央線住みなので、新宿で乗り換えなければいけない。あの新宿で、京王新線に。うん、やっぱり面倒だな。
とは言え、ゆっくり本を読める環境は欲しいわけで、近所の喫茶店の開拓からだな、と食べログとかrettyとかで色々みてます。吉祥寺まで出れば喫茶店の数も増えるが、土日は混むからなぁ。やっぱり家の近所だよな。どうせならコーヒーやケーキが美味しいところがいい。静かなところがいい。音楽も重要。時間をかけて探してみよう。そうしよう。
因みに2冊目もでるようです。1000ページ超えたあたりで文体に慣れたのか、それとも文体が変わったのか、多少読みやすくなった気はするんだけど…うーん。